今回は、非常に長文です。
◆『サイエンス・レンジャーによる 科学の実験 無事88』
石島 秋彦・左巻 健男・西潟 千明・山本 明利 編著
という本があります。この本が企画されたときに、Niftyの
FKYOIKUSの【理科の部屋】に実験・観察の事故の事例報告
が集積されました。私も、幾つか報告しました。その時に、毒草に
ついてちょっと意見を書きました。
小学校の理科の指導書には、必ず毒草の代表としてドクゼリがあ
がっています。確かにこの植物は強烈な毒を持っているとされてい
ます。しかし、関西においては、極めて稀な植物です。指導書には、
同じくノウルシやドクウツギが注意すべき毒草として載っています。
ノウルシも絶滅危惧種で、極めて稀な種です。ドクウツギは、絶滅
危惧種ではないですが、私個人としては、雲南省まで行って初めて
見たというなかなか出会えなかった植物なのです。親の敵みたいに
書くのは一方的すぎます。正しい知識があれば、避けられるのです。
はじめから排除するのは間違っています。ドクゼリは、見つけたら
新聞に載せてもらえるような種類なんです。見つけたらやったーと
叫んでほしいもんです。
なんてことを書きました。
その後に以下のような文をまとめました。1999年のことです。
身近な毒草というと必ずドクゼリがあがります。名前にも毒とつ
いているのですからある面当然なのかも知れません。しかし、それ
だけで片付けてしまっては、ドクゼリがかわいそうです。第一、ド
クゼリというのは、人間が勝手につけた名前です。もっとすてきな
名前をつけてもらいたかったかもしれません。
それで、ちょっと別の名前を調べてみました。ありました。地下
茎を延命竹・万年竹などと呼び、水盤に浮かべて鑑賞するのです。
毒どころか、縁起のよいものとして大切にされているのです。見方
一つで同じ植物がこれほど変わります。
毒があるものは全て排除しようというのが最近の流れです。この
まま放置しておいては、ドクゼリが絶滅させられそうです。
ドクゼリについて調べてみました。『日本の野生植物』平凡社
には、「北海道~九州にあり、ユーラシアに広く分布する。特に地
下茎や根にシクトシンという毒成分が多い。竹に似た太い地下茎は
観賞用にもされる。」とあります。どこにでもありそうな植物のよ
うに書いてあります。これは本当のことでしょうか?
『植物分類,地理』という学会誌があります。その中に「琵琶湖
岸の植物-海浜植物と原野の植物」藤井伸二という論文がありまし
た。そこには、「(近畿地方では)、琵琶湖・淀川沿いに集中し、
この地域では個体数も多
くてごくありふれているが、他ではまれである。」とあります。近
畿地方では偏った分布をするようです。
そこで、絶滅の危機にある植物を集めたレッドデータブックを見
てみました。まずは、『近畿地方の保護状重要な植物 レッドデー
タブック近畿』レッドデータブック近畿研究会編著.1995です。一
覧表をみると載っています。ドクゼリは近畿地方では、絶滅の危機
にある植物だったのです。詳しく見ると、兵庫、大阪、京都、滋賀、
奈良、和歌山、三重のうちで、和歌山では分布情報がなく、他では、
現在の生育が確認されています。滋賀には、一部のブロックには多
産するとあります。この表を信じるならば、和歌山でドクゼリを発
見すると和歌山県新産の植物ということで大発見です。
次に『レッドデータ ひょうごの野生植物 絶滅が心配されてい
る植物たち』兵庫県.神戸新聞総合出版センター.1996を見て
みました。ドクゼリは、かつて兵庫県内では全域に生育していたよ
うで、西播磨を除く数カ所の産地が記録されています。しかし、最
近ではほとんどみかけなくなっており、ごく最近摂津で生育が確認
されたにすぎません。
ドクゼリは、兵庫県では、最も絶滅に近いAランクに指定されて
います。1カ所しか知られていないのですから当然です。
ところで、ドクゼリは、ある特殊な環境を指標する植物の1種で
あるという人々がいます。その人たちによると、ドクゼリは、原野
の植物というグループに入れるべき種になります。原野環境とは次
のような環境をさします。
西南日本では温度、水分などに恵まれているため、自然に草原が
できるような場所はほとんどありません。一番身近にある草原は河
川敷に見られるものです。大河川の氾濫原は、増水時には水浸しに
なり、洪水時には地形が変わるほどの撹乱を受けるため、安定した
森や林が発達できません。このため、水分条件や撹乱の頻度に応じ
て様々なタイプの草原、ひとまとめにして「原野」と呼ばれる環境
ができます。
原野環境は、人の活動域に近いために大規模に残っている例はほ
とんどありません。
また、保護の面からみても、環境庁が作成している『日本の重要
な植物群落』は原生林を偏重しており、原野は無視されてきていま
す。近畿地方では、淀川水系である宇治川の向島周辺が唯一あがっ
ているのみです。
しかし、『我が国における保護上重要な植物種の現状』(198
9年)の中で、「保護を必要とする種の生育地が集中している地域
の現状」として利根川の原野環境が論じられるなどして、ようやく
原野などの低湿地特有の植物群の重要性が社会的にも認識されだし、
建設省の「河川水辺の国勢調査」マニュアルでも重要性が指摘され
ています。
『近畿地方の保護上重要な植物』(1995年)によると近畿地
方では、次のような場所で比較的大規模な原野環境が見られるが、
琵琶湖・淀川水系を除くと十分な調査ができておらず詳細は分かっ
ていません。
琵琶湖;安曇川デルタ・早崎~尾上・西の湖・舞子沼など
宇治川;向島(京都府伏見区)など
淀川 ;鵜殿(高槻市)・樟葉(枚方市)・豊里(大阪市東淀川
区)など
円山川;立野~玄武洞(豊岡市)
由良川;三河~高津江(大江町)
紀ノ川;中州~六十谷(和歌山市)
実は、ドクゼリはこのような貴重な環境を指標する植物だったの
です。そんな背景もあって、私は自分の住む但馬地方でドクゼリを
探しています。
さて、私の住む但馬ですが、京都大学に1点だけ標本があります。
これが唯一のもので、これ以後誰も標本をとっていません。それか
らおそらく30年ほど経つのだと思います。1昨年、最もありそう
な川をある方が全域調査されました。その川は、兵庫県北部で原野
環境が最も典型的に残っている川で、環境庁の「生物多様性保全ガ
イドライン策定調査の区域ごとの重要地域一覧」に載るようなすば
らしい川なのです。こんな川でさえドクゼリは見つかりませんでし
た。しかし、私はまだあきらめていません。円山川下流域に怪しい
場所があるのです。そこの調査は今年の大きな目標の一つです。
ドクゼリというのは、今日まれになった環境を代表する植物です。
これがあれば、他にも希少な植物があります。近畿地方のある県で
は、ヤナギヌカボとミズアオイがいっしょに出てきました。とりわ
けミズアオイは、稀少です。近畿地方では、一時的に絶滅が疑われ
ていた植物です。こんなものが出てくるのです。
追記
素晴らしい川というのは、もちろん六方川のことです。
円山川の下流というのは、戸島のことです。
近畿地方のある県というのは、滋賀県です。
『改訂・近畿地方の保護上重要な植物 レッドデータブック近畿
2001』によると
兵庫北部 絶滅した可能性が高い
兵庫南東 絶滅した可能性が高い
大阪北部 稀
大阪南部 稀
京都丹後 稀
京都丹波 分布情報があるが、標本の裏付けがない
京都山城 稀
滋賀南部 普通
滋賀北部 普通
奈良北部 稀
三重北勢 絶滅した可能性が高い
三重中勢 絶滅した可能性が高い
三重紀勢 稀
三重伊賀 分布情報があるが、標本の裏付けがない
その他の場所 分布情報がない
ということで、兵庫では、すでに見られなくなっているようです。
私は、ひのそ島の土中に眠っているに違いないと思っています。土
をたくさん掘ってきて、播きだし試験をしたいなあと切に思ってい
ます。ああ、やりたい。
at: 2001/11/07(Wed)