原野の植物

 西南日本は温度、水分などに恵まれているため、自然に草原ができる
ような場所はほとんどない。一番身近にある自然草原は河川敷に見られ
るものである。

 大河川の氾濫原は、増水時には水浸しになり、洪水時には地形が変わ
るほどの撹乱を受けるため、安定した森や林が発達できない。このため、
水分条件や撹乱の頻度に応じて様々なタイプの草原、ひとまとめにして
「原野」と呼ばれる環境ができる。ここには氾濫原の草地以外にはほと
んど見られない原野の植物と呼ばれる特有の植物たちが生育する。

 原野環境は、人の活動域に近いため大規模に残っている例は稀である。
また保護上重要な場所であると認識されたのも近年になってからである。
重要性が広く知られ始めたのは『我が国における保護上重要な植物種の
現状』(1989年)が発刊されたころからである。

 『近畿地方の保護上重要な植物』(1995年)によると近畿地方では、
次のような場所で比較的大規模な原野環境が見られるが、琵琶湖・淀川
水系以外は詳しく調べられていない。

 *琵琶湖;安曇川デルタ・早崎~尾上・西の湖・舞子沼など
 *宇治川;向島(京都府伏見区)など
 *淀川 ;鵜殿(高槻市)・樟葉(枚方市)・豊里(大阪市東淀川
区)など
 *円山川;立野~玄武洞(豊岡市)
 *由良川;三河~高津江(大江町)
 *紀ノ川;中州~六十谷(和歌山市)  

 円山川では、立野大橋上下流から下流に大規模な原野環境が出現す
る。上流では八鹿町宿南のあたりに小規模なものがある。出石川では
五条大橋上下流に小規模な原野環境が出現する。左岸の水田が休耕さ
れ始めた頃には、各種の原野の植物が出現した。
 
 矢田川にはタコノアシやホソバイラクサがわずかに見られ、原野に
近い環境が残っていることがうかがわれる。

 円山川で見られる原野の植物は、オオマルバノホロシ、ミゾコウジュ、
コバノカモメヅル、サデクサ、ホソバイヌタデ、ヤナギヌカボなどであ
る。準原野性の植物としては、ヒメナミキ、タコノアシ、ミズタガラシ、
マツカサススキ、コウヤワラビなどである。

 上記の植物の多くは、原野環境の中でも特に不安定な場所に生育する。
河川草原の中で最も微妙な環境を利用しているのだ。そんな微妙な環境
に生きるがために、彼らの多くは、絶滅寸前である。河川改修で作り替
えられた今の川には原野の植物たちが生きていける場所はほとんど残っ
ていない。そんな中で円山川周辺にはまだ再生の可能性が残っている。

 国土交通省は、環境に配慮した工事を行っているが、予想外の好結果
を残している。例えば、豊岡市佐野では、大量のタコノアシが発生した。
豊岡市野上では、サデクサ、ホソバイヌタデ、ヤナギヌカボ、タコノア
シ、マツカサススキが出現した。ここでは、原野の植物ではないが同様
に極めて希少であるミズアオイ、ミクリ、ヒメシロアサザも出てきた。

 また水田は、大規模に攪乱が行われるという点で原野環境に似ている
が、川に隣接した耕作放棄田では、しばしば、サデクサ、ホソバイヌタ
デ、ヤナギヌカボ、タコノアシ、マツカサススキなどが見られる。

 円山川と円山川に隣接する水田は、まだまだ大量の種子の在庫を地下
に持ち、高い潜在力を保ちつつ自分たちに都合のよい環境が揃うのを待
っているのである。環境をそろえるのは、今では人間の仕事になってい
る。彼らにどう答えるのか、十分な議論が必要とされている。
 
  
写真は、原野の植物のホソバイヌタデと普通種のイヌタデ。
 白い花がホソバイヌタデ。ピンクの花がイヌタデ。実際は、ホソバイ
ヌタデは薄ピンクで、イヌタデはピンク~薄い赤。ホソバイヌタデは、
葉の幅が明らかに細いのが分かると思う。花がない時には、葉の裏を
ルーペで見ないといけない。

at: 2004/08/19(Thu)

目次