ホソバイヌタデ

円山川の植物の第二番はホソバイヌタデです。円山川に生育する中
で、最も絶滅確率の高い種です。『改訂・日本の絶滅のおそれのある
野生生物 レッドデータブック 植物Ⅰ(維管束植物) 2000』
には、絶滅危惧ⅠB類(EN)として載せられています。
 
 その本から抜き書きをしておきます。
 「報告のあったメッシュは、41あり、そのうちの2メッシュで数
個体、15メッシュで数十個体、1メッシュで数百個体であり、総計
800個体と推定される。平均減少率は約60%、20年後の絶滅確
率は約20%である。」
 
 実は、この調査は、私にも孫請けで依頼があり、ホソバイヌタデに
ついては、「数百個体ある」と回答したように覚えています。もし、
その通りに集計に加えられているのならば、円山川が飛び抜けて日本
最大の自生地であることになります。
 
 もう一度、先の本にかえって、府県の分布状況をあげておきます。
 
 生  育;宮城県、栃木県、埼玉県、千葉県、神奈川県、福井県、
      大阪府、兵庫県
 現状不明;茨城県、群馬県、京都府、大分県
 
 となります。
 
 手元の資料でもう少しくわしく調べてみます。「生育」とされてい
る神奈川県では、『神奈川県植物誌2001』に、「「神植誌88」
の調査では1点が採集されているが、その後の調査では確認されてい
ない」とあります。

『改訂・近畿地方の保護上重要な植物 レッドデータブック近畿20
01』には、兵庫県の北部と南西部、京都府の山城地区、大阪府の北
部に生育するとあり、京都府の丹波地方に疑問符付きの絶滅が記され

ています。他に愛知県には分布しているという本もあります。少し文
献に当たるだけでもなかなかどこにどのようにあるのか非常に分かっ
ていない種類であることが分かります。確実なのは、極めて稀になっ
ているということです。
 
 この植物が、どれくらい知られていないかというと、現在、最も信
頼されている平凡社の『日本の野生植物』のホソバイヌタデの写真が
間違っていることからも分かります。この本のホソバイヌタデの写真
は、イヌタデです。
 
ついでに書いておくと、ヤナギヌカボも間違っていてヤナギタデの
写真が載っています。新装版になるときに訂正されるのかなと思って
いましたが、そ
のままです。
 
 さて、ようやく本題ですが、兵庫のホソバイヌタデはどうなのでし
ょうか? 数年前に、県南部で小さな個体群が発見されました。それ
までは、円山川水系が兵庫県における唯一の生育地でした。円山川水

系のホソバイヌタデは、建設省の河川水辺の国勢調査で発見されまし
た。この調査は、実に精度のよい調査で、さまざまな植物が発見され
ています。同じ頃、円山川の植物を調べ始めていた私は、調査範囲が

重なってはいなかったのですが、こんな植物があるとは全く思ってい
ませんでした。大学生の頃、京都のこの植物が生育する場所にすんで
いて、何度かそのヨシ原に入っていて、おそらく現物を見ていたであ
ろうにも関わらず想像もしていませんでした。全くあ~あです。
 
 円山川水系のホソバイヌタデは、次の場所に生育します。絶滅危惧
種の生育場所は隠されることが多いのですが、この種類の場合、はっ
きりしておいた方が保全の役に立つと考えますので書いておきます。
 
 出石川
  出石町片間、伊豆、豊岡市加陽
  出石川の高水敷と休耕田に生えています。高水敷には、タコノア
シも見られますが、どちらも個体数は多くありません。下流に向け
 
て、円山川との合流点まで似たような環境が続きますが、確認でき
 ていません。時々出てきているのかも知れません。しかし、生育地
 のすぐ下流が、増水で植物もろとも流されて、一面泥をかぶって、
 
 いかにもホソバイヌタデとかが出そうな環境になった年がありまし
 たが、1本のホソバイヌタデも見られませんでした。一面、オオブ
 タクサでした。ですからどんな理由があるのか分かりませんが、ホ
 
 ソバイヌタデは上記以外の場所にはないのかも知れないとも思って
 います。
 
  休耕田には、耕作が放棄された直後は結構見られましたが、今は
 極めて稀になっています。取水堰の上流の右岸側には時々やや大き
 な群落が見られることがあります。おそらく種子の姿で眠っている
 のだと思います。
 
 六方川
  河川改修から取り残されたような部分が豊岡市に残っています。
 その上流側には多くのホソバイヌタデが生育します。年によって違
 
 いますが、非常に多い年(例えば2000年)があって、その時は
 数百個体以上であることは間違いないと思います。ここだけで日本
 一の規模なのかも知れません。
 
 円山川
  堀川橋の右岸・左岸の上流にも下流にも生育します。右岸の上流
 側にヤナギの林があります。ここは、ホソバイヌタデが多いために
 あえて伐り残してある場所です。河川環境アドバイザーの助言によ
 
 り切り残されたのです。数年たって、間違ってそのヤナギが伐られ
 てしまったことがありますが、大きな影響を受けずに、大きな群落
 が維持されていました。昨年、その場所に行ってみると、大きく育
 
 ったヤナギの中に、1本のホソバイヌタデもなく、これもまた絶滅
 が心配されるサデクサが非常に密度濃く大量に生えていました。ど
 うもヤナギが育ちすぎてホソバイヌタデには厳しい環境になってい
 
 るようなのです。ホソバイヌタデがたくさんあったのでヤナギを伐
 らずにおいてあったのですが、放置しすぎてもいけないのかも知れ
 ません。なんともやっかいな植物なようです。そういえば、この場
 
 所は、これまで、定期的にヤナギが伐られるだけでなく、ユンボや
 ブルドーザでヤナギが抜かれたり、ゴミが集められて燃やされたり
 もした場所です。少々荒っぽい管理が時にはあった方がこのタイプ
 
 の植物にはよいのかも知れないと思ったりもしています。
 
  その他に、一日市島、ひのそ島にも知られています。とりわけひ
 のそ島の下流部の右岸側には大きなヤナギ林があり、多いときには
 優に千を越える個体が生育していました。私はこの個体群を指して、
 
 数百以上の個体があると答えたのだと覚えています。ここのヤナギ
 は、最近、ほとんどが伐られてしまいましたが、大きな影響はない
 だろうと思っています。
 
 上記以外では、豊岡近辺の水辺の植物を精力的に調べておられる竹
田正義さんが、最近、豊岡市梶原の水田脇の湿地と豊岡市赤石の圃場
整備途中の水田(荒地・埋立地)で発見されています。赤石は、広範
 
囲に見られるということです。赤石は、何年か前に私が見に行ったと
きには見られなかったので、工事によって、眠っていた種子が目覚め
たのではないかと私は考えています。いずれにしても堤防の隔てて街
側に見られるホソバイヌタデは、この2ヶ所のみです。
 
 このタイプの植物を保全する場合、治水で総合治水がいわれるよう
に、多面的な視点からなる総合的な保全が必要になります。メタ個体
群というのですが、個体群間の関係を総合的に考える必要があります。
 
大きな群落を育むひのそ島や堀川橋の前後や六方川などを単独に保全
するのではなく、最上流の出石川の群落やまだ知られていない群落な
どを含めて、総合的に判断しないといけません。そういう意味では、
 
ひのそ島が、半分残ることは喜ばしいことなのですが、最上流の出石
川の個体群がほとんど何も配慮されることもなく生育地を改変されて
いることは憂慮されるべきことです。

at: 2001/10/23(Tue)

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