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水田の生物多様性はよみがえるか?  No.76



 
最近よく見る本に草薙得一編著『原色雑草の診断』農村漁村文化協
会(1986)がある。この本は雑草を防除することを目的に書かれた本
である。読者は、稲作農家であろう。だから出この本に出てくる雑草
は、もうどこにでも生えていてしかも数が多いものに限られているは
ずである。
 
 野生植物に関心のある私はふだん農業関係の本は見ない。暇つぶし
をしていてたまたま書店でこの本の水田雑草の項を見て驚いた。私が
未だ見たこともない植物、一度見てみたいと思っていた植物が、続々
と出てくるのだ。私がこの本と出会った時点では、それらの植物は、
すでに絶滅危惧種となり保護されるべき生き物になっていたのである。
 
 この本が作られて約20年、時代は完全に変わったのだろう。どこ
にでもあってありふれていた雑草が、今では保護上重要な植物になっ
ているのである。
 
 国、近畿地方、兵庫県と様々なレベルで絶滅危惧種が選定されてい
るが、それらをこの本に載っている順にあげる。
 
 ミズアオイ、ホシクサ、ミズワラビ、タウコギ、アブノメ、オオア
ブノメ、ヒメミソハギ、ミズマツバ、コウキヤガラ、シズイ、フトイ、
サジオモダカ、アギナシ、デンジソウ、ヒメシロアサザ、サンショウ
モ、アカウキクサ、オオアカウキクサ、イチョウウキゴケ、ミズオオ
バコ、コガマ、ミクリである。
 
 この本にある水田雑草は66種類で、水路雑草は13種類。この合
計79種類のうち22種が絶滅危惧種である。水田周辺に普通にあっ
た種類の実に4種に1種が姿を消そうとしているのである。
 
 『改訂・近畿地方の保護上重要な植物』(2001年)には「近い
将来における絶滅の危険性が極めて高い種類」として以下のものが載
っている。
 
 ミズアオイ、オオアブノメ、シズイ、アギナシ、ヒメシロアサザ、
アカウキクサ、ミクリである。
 
 この中で、ミズアオイは、兵庫県、大阪府、京都府、滋賀県にそれ
ぞれ数カ所残るのみで、奈良県、和歌山県、三重県では絶滅を疑われ
ているという状況である。但馬には、現在、出石町、豊岡市、城崎町
で生育している。そのうちの幾つかは近畿で最大規模の自生地とみて
間違いないと思う。
 
 これら水田周辺の植物の急速な減少は、除草剤による影響が大きい
と思われがちだが、構造改善事業(耕地整理等)による泥田・湿田の
乾田化も大きな影響を与えている。極端なことをいうと、湿地の端に
排水のための溝を1本掘るだけで湿地は乾きはじめ、生育環境は激変
する。こんなわずかな環境変化で姿を消す生き物は多い。大規模な乾
田化によって湿地や水路にすむ植物たちは生育するための基盤を根本
から失った。そこに除草剤がとどめを刺したのだろう。
 
 ところが、除草剤は、これらの植物を減らしただけでなく、一方で、
生き残った植物をやっかいなものに変身させてもいる。例えば、ミズ
アオイは、ほとんどの府県で絶滅寸前であるが、東北地方では、除草
剤に鍛えられて耐農薬性の個体が出現している。このミズアオイは水
田の肥料分を大量に消費する稲の大敵なのだが、農薬では駆除が難し
い。よく育ったミズアオイは、1株だけで万単位の種子をまき散らす。
放置できない強敵である。農薬は万能薬ではない。薬も使い方を間違
えると毒にもなり、敵も作るのである。
 
 私たちは、一方では生きものたちを絶滅に追いやり、他方では生き
ものたちの逆襲にあっている。私たちは今、生きものたちとの新しい
つきあい方を求められている。各地で試みられている無農薬農法、有
機農法などはその現れなのだろう。農業への環境支払いを求める声も
大きくなってきている。「"水も病み、土も病み、人も病む農業"から"
健全な環境で安全な作物が育つ農業"への転換が国民的な課題」となっ
ているのだ。(2004シンポジウムの宣言(案)−日本型環境支払いに
向けた提言−より引用)

 
at: 2005/01/07(Fri)




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