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カワラハハコ(洪水を待つ植物たち)  No.74





カワラハハコ キク科

 川の上流域では、傾斜が急なので水の流れは速く、川は岩や土を削
る力が強く、石や砂をためる力は強くない。それが次第に下流になる
に従って、削る力が小さくなり、降り積もらせる力が大きくなる。
 
 川の中流域では、川の中に転がっている石の丸みが増し、石や砂で
できた州ができる。この州にも植物たちが暮らしている。
 こうした州は、大変に厳しい生活場所である。州はちょっとした増
水で水浸しになり、流れが強くなると生えている植物ごと石が流され
てしまう。このように、州は急に水没するかと思えば、水が引くとと
たんに乾燥し、強い陽がさす。州は洪水と砂漠が同居しているような
実にやっかいな環境なのである。
 
 州の中には、角の取れている大きな石や、小さな石がごろごろと転
がっている河原がある。これを丸石河原と呼ぶ。丸石河原は、川の中
流域に特徴的な景色である。
 
 丸石河原は、洪水によって維持されている。洪水が来るとここの石
は流されるが、やがて洪水が終るころに、上流から流れてきた新しい
石が残る。こんなダイナミックな動きがあってはじめて丸石河原は保
たれている。だから、上流に多くの砂防ダムができて山からの石の供
給が止められたり、ダムができて石の流れが止まると、この河原は、
砂や泥におおわれて消えてしまう。大きな増水がないときも同じであ
る。小さな増水では、泥水が流れるだけなので、石は泥に埋まり、泥
は泥の上に生える植物におおわれてしまう。ここ5年間ほど、丸石河
原を更新するような増水は起きていない。だから、現在、丸石河原は
非常に狭くなっている。
 
 特殊な環境だけあって丸石河原には、丸石河原の植物と呼ばれる特
別な植物が生育している。丸石河原の植物には、カワラという名前を
持っているものが多い。但馬ではカワラナデシコ、カワラサイコ、カ
ワラケツメイ、カワラヨモギ、カワラハハコなどが知られている。
 
 丸石河原の植物には数を減らしているものが多い。例えばカワラサ
イコはもともと但馬ではほとんど知られていないが、かつて記録され
たところでは姿を消し、絶滅が疑われるほどになっている。カワラハ
ハコは、円山川では見られるが、兵庫県の他の川では姿を消している。
 
 円山川にしてもかつては大屋川の上流部でもカワラハハコが見られ
たが、現在では、養父町より下流に点々と群落が見られるに過ぎなく
なってきている。
 
 丸石河原は、山と海が健全につながっている川でしか見られない。
そしてカワラハハコは、健全な丸石河原でしか見られない。円山川が
いつまでもカワラハハコの生育できる川であることを私は願っている。

 


at: 2004/07/03(Sat)




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