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タイコウチ  No.28



思い出す少年時代
  タイコウチ(半翅目タイコウチ科)

 僕は昆虫少年だった。今から約20年前、僕が生まれ
育った都会でも、家の周りにはまだたくさんの水田があっ
た。トンボや小さなゲンゴロウの仲間を、網を片手に夢
中になって採っていた。僕が但馬に移り住んだのは今か
ら約8年前。その日から、僕の昆虫採集が再び始まった。

 7月、僕は山裾にある小さな湿地を見つけた。少し前
まで水田だったらしく、畦が雑草の隙間からわずかに見
てとれる。僕は畦からそっと水面を覗いた。すると、一
瞬泥がピクリと動いた。タイコウチだ!

 お腹の先から伸びた細長い呼吸管の先を水面に出して
大きな前あしを広げている。餌を待ち伏せしているよう
だ。背中に泥をかぶり、一見落ち葉のようにも見えるこ
の技は、まるで忍者の術だ。さらに近づくと、身の危険
を感じたらしく一目散に泳ぎ出した。泳ぐといっても、
4本の後ろあしをバタバタとさせてあまりスピードがな
い。不器用にも見えるその姿は、何だか滑稽で面白い。

 タイコウチという名前は、その泳ぎ方が太鼓を打つよ
うに見えることに由来しているらしい。そんな名前が水
生昆虫には多い。それだけ身近な生きものだったという
ことだろう。

 タイコウチは水辺に近い土の表面に卵を埋め込む。そ
こには適当な湿気や卵が呼吸するための空気があり、孵
化した幼虫がすぐに水中にたどりつくことができる。タ
イコウチが生息するには、浅い水域と産卵のための畦、
オタマジャクシなどの豊富な餌が必要になる。

 タイコウチのいたその湿地は、今はもうない。湿地が
消失し、水田環境が悪化するにつれ、彼らの姿を見るこ
とが少なくなった。今でもフィールドでタイコウチに出
会うと、僕は少年時代の懐かしさを思い出す。その懐か
しさは、僕の原点のような気がする。彼らの姿は昔のま
まだ。今の子供たちが大人になったとき、果たしてそん
な懐かしさを感じることができるだろうか。少し不安に
なった。

文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・竹田 正義
※2005年3月13日掲載





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