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イヌノフグリ  No.25



石垣はタイムカプセル

イヌノフグリ ゴマノハグサ科
 
 イヌノフグリに出会ったのは約30年前。大学生の頃、ちょっと
遠出の散歩の途中である。伏見の酒蔵の辺り、道端にイヌノフグリ
は点々と生えていた。イヌノフグリは当時でも稀な植物だったが、
そこでは酒蔵の石垣と直下の道にたくさん見られた。毎年、「今年
も生えている」と確かめに行ったのを覚えている。
 
 その後、私はイヌノフグリを10ヶ所くらいでしか見ていない。
ほとんどは石垣などの中である。本来の生育地であろう畑地や道ば
たで出会ったのは数度しかない。
 
 イヌノフグリが急速に減ったのは、明治時代に入ってきたオオイ
ヌノフグリなどが原因だとされている。この2つの植物は、同じよ
うな環境を好むらしい。同じ環境を好む植物が出会うとに弱い方は
姿を消すしかない。公平に戦ってもオオイヌノフグリの勝利は間違
いないだろう。そこにさらに人の影響が及んでいる。畑や道端は人
の影響が強い場所である。毎年激しく攪乱されるこんな場所には真
っ先に帰化植物が入り込む。おそらくオオイヌノフグリの圧勝の陰
にはそんな人の働きかけも関わっているのだろう。
 
 ではなぜ作り物である石垣にイヌノフグリは生き残っているのだ
ろうか。私は石垣の作られた年代と手入れの仕方に秘密があるのだ
と思っている。但馬で見た3ヶ所は全て戦前からありそうな古い石
垣で、コンクリートは使われずに石だけで組まれている。手入れは
熱心ではなく、石垣のすき間からは草が生えている。オオイヌノフ
グリが入り込む前の環境が、そのまま残っているのだろう。草取り
をしないことでその微妙な環境が維持されているのだろう。3ヶ所
のうちの1ヶ所は草取りによってオオイヌノフグリと置き換わって
絶滅した。それを見てそう考えた。こんなことを考えている人は他
にもあるようで、学術冊子には「石垣の植物」とか「旧家の庭の植
物」などという論文が載っていたりする。どうやら昔ながらのおお
らかな管理をされている石垣や旧家の庭はタイムカプセルらしい。

 




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