円山川の中州「ひのそ島」観察会(報告)
竹田 正義(コウノトリ市民研究所)
2001年11月10日(土) 10時〜14時頃
円山川は河川勾配は緩く、そのため下流部には堆積した土砂によって幾つかの中州が
形成されていて、その河川特性などからかつてより氾濫を繰り返してきました。城崎
町と豊岡市にまたがる中州「ひのそ島」は、全長約1.4km、最大幅約200m、面積約16
ヘクタールの大規模な中州です。国土交通省は1987年、「ひのそ島」が円山川の流れ
の妨げになり、洪水の要因になるとして、前面掘削を前提とした調査を開始しまし
た。しかし、この「ひのそ島」には、ヤナギヌカボ、ホソバイヌタデ、サデクサ、マ
ツカサススキ、タコノアシなどの原野環境に生育する希少な植物や、ミクリ、ヒメシ
ロアサザ(埋土種子)が自生していることが知られています。国土交通省は1996年、
これらの現状から中州の希少植物の表土移植試験(島内の放棄水田
の土を移動した)を実施しました。ヒメシロアサザはこの試験によって偶然発見され
たものです。他にも多くの埋土種子の発芽が確認され、土壌シードバンクの潜在性が
証明されました。この試験は、原野環境に生育する植物たちの保全に大きな意味を
持ったと思います。
治水面から全面掘削を求める地元住民と、貴重な環境の保全を求める声がある中、
2000年には地元住民や有識者からなる「ひのそ島改修検討会」が発足され、掘削の手
法とその効果や、周辺環境への影響などについて、国土交通省と協議されてきまし
た。そして今年の9月、国土交通省は全面掘削せず4分の3のみを除去し、残った部分
に中州の希少植物を移植するという方針を明らかにしました。
この「ひのそ島」観察会は、今年度中にでも掘削事業が着工されるであろう「ひのそ
島」に生育・生息している動植物を正確に記録(写真、標本)し、多くの希少植物が
残存している貴重な原野環境とその保全について考えることを目的としました。
1)渡船での出発
前日からの大雨で円山川の増水が心配でしたが、当日は何とか雨もやみ、少し肌寒い
観察会となりました。観察会には遠方から4名の方が参加され、また但馬からは地元
のラジオ局「FMジャングル」の方もメールでの呼びかけで取材に駆けつけて下さい
ました。渡船を利用して「ひのそ島」にいざ出発です。出発地点は円山川河口から約
7kmの距離でしたが、日本海からの波が逆流してきていて、渡船は上下にかなり揺
れ、船首からの水しぶきが参加者のカメラを襲いました。円山川の河川勾配の緩やか
さを実感させられました。
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2)ホソバイヌタデ、サデクサの群生確認
ホソバイヌタデは、「ひのそ島」では下流の右岸側に多産することが分かっていま
す。昨年の2回の調査でも、本種は島内の数ヶ所で群生しているのを確認していま
す。今回の観察会でも、やはり島内の数ヶ所で群生しているのを確認することができ
ました。タデの仲間ではヤナギタデの次に多く見られる程でした。このホソバイヌタ
デは、円山川に生育する中でも最も絶滅の確率の高い植物といわれています。環境庁
版RDBでは、日本で総計約800個体と推定されています。その中でも、この円山川
は日本最大の自生地と考えられています。円山川水系では、数ヶ所で確認されていま
す。なぜこの円山川に偏在的に自生するのかは分かっていません。また
、サデクサは昨年の調査では小規模な群落が確認されたのみでしたが、今回では大規
模に群生しているのが確認されました。本種の消長についても分からないことばかり
です。改訂された近畿版RDBではCランクにリストアップされています。
3)ヤナギヌカボ確認できず
昨年の調査では、島内の数ヶ所でのみ確認されましたが、今回は全く確認できません
でした。昨年はいわゆるオープンランドに生育していましたが、その確認されたであ
ろう地点では、土壌の表面はミゾソバやヤナギタデが覆い尽くしていました。本種は
その消長が極めて激しいことが知られています。環境の微妙な変化がその要因と考え
られます。しかし、本種も他の植物と同様に、土壌中でその発芽の機会を待って眠っ
ているはずです。本種は但馬でもこの「ひのそ島」でしか確認されていません。なぜ
「ひのそ島」にだけ生育するのか。これについても今後さらに継続調査していく必要
があります。
4)カダヤシ確認
植物以外で注目すべきことは、帰化種のカダヤシが、島内の池のようなところで相当
数確認されたということです。そこは島内の中央に位置しますから、一体いつどこか
らやってきたのか不思議です。その体長の組成などから、本種はかなり昔から「ひの
そ島」に生息していたと考えられます。おそらく、かつての増水時(島がつかるくら
いの大規模な増水)に上流から流れ着き、かろうじて残って島内の水域で生き残って
きたか、かつての耕作時(数年前)に円山川本流から水を介してその地に移動された
ものと考えられます。ちなみに、数年前、豊岡盆地の水路で本種が確認されたという
記録があります。
5)確認種
植物:イヌタデ、ホソバイヌタデ、ヨシ、ミゾソバ、スズメノウリ、シロネ、ノイバ
ラ、ショウブ、スギナ、ツルヨシ、タコノアシ、イ、サイハイラン、ボントクタデ、
オニグルミ、ツリフネソウ、ヒガンバナ、クサソテツ、オドリコソウ、シロバナサク
ラタデ、サクラタデ、オオミゾソバ、コシロネ、アキノウナギツカミ、カナムグラ、
ヤナギタデ、サデクサ、ミズ
魚類:カダヤシ
クモ類:シッチコモリグモ
その他:ヌートリア、シュレーゲルアオガエル
このように、タコノアシ、ホソバイヌタデ、サデクサなど、原野環境に生育する希少
な植物が確認され、一方、昨年確認できたヤナギヌカボは確認できませんでした。し
かし、これらの原野の植物たちは、土壌中でかなりの期間休眠することが知られてい
ます。これらの埋土種子は、環境の微妙な変化により発芽する機会を土壌中で待って
いるはずです。この典型的な例として、今年の10月に確認された、ひのそ島周辺のほ
場整備途中の水田(荒地)で広範囲にホソバイヌタデが発芽した、というのがありま
す。これらのことからも、本種を含め原野に生育する希少な植物たちの保全について
考えるとき、単に移植による保全だけではなくて、その種が存続できる環境を保全す
ることがまず大切と考えられます。この「ひのそ島」の掘削事業では、部分掘削とい
う一応の妥協点に落ち着いたことは保全に対してかなり前進といえます。工事は約5
年間といわれています。このような土壌シードバンクの潜在性を十分に考慮された植
物の保全となるように今後の動向に注目したいと思います。
最後に、当日いろいろとお世話になりました参加者の方々、本当にありがとうござい
ました。
*この調査の様子については、FMジャングルのビデオジャングルという10分間番組で放送されました。
ジャングルのホームページで見ることもできます。随時ご覧下さい。http://www.764.fm/