ながぐつ観察記(毎日新聞) 一覧

ヨメナ 変わらぬ暮らしを・・・・

ヨメナ キク科

 秋祭りで午前午後と村の中を二回りした。私の村はなかなか広い村で、それぞれ2~3時間かかった。朝は子どもだんじりのお供、午後は大人のだんじり。午後はひたすら重さに耐える戦いの時間だったが、午前は周りをゆっくりと見て回る余裕があった。
 だんじりの通る道の両端には路肩があり、その先に田んぼや畑がある。山際を通るところもある。このコースを子どもと一緒に歩くのはこれで9回目になる。だからどこに何が生えているかよく分かっている。歩くと「そうそう、ここにはこれがあったんだ。」と思い出す。年に一度の旧友との再会みたいなものである。
 ピンク、赤、白、黄色と色とりどりの花が現れる。律儀に毎年同じ花が咲くところもある。これはその植物がその場所に生き残っているからだが、それはその場所が毎年同じ管理を受けているからでもある。同じ頃に同じ仕方の草刈りがされているのだ。
 毎年変わらぬ花を見て「ああ、今年も咲いていたな」と安心する。同じ花が咲くのは、その土地を持つ人の暮らしも大きく変わっていないことを意味している。路肩や農地の野草は人の暮らしも想像させてくれる。
 道沿いに派手な花は少ない。しかし私は丁寧に世話をされた路肩に、自然に花を開く植物たちが好きだ。美しいとも思う。ところが、わざわざこんなところにコスモスを植える人もある。路肩の花々は、どこにでもある当たり前の花々である。きっと当たり前すぎてありがたみがないのだろう。
 ヨメナの仲間は路肩で見られる中で最も花らしい花だ。ヨメナの花は、真ん中が黄色で、周りにある白い花弁が青を帯びていて瑞々しい。ヨメナは多年草で、掘り下げると白い地下茎が伸びている。この地下茎でよく広がる。草刈りをするときに、気をつけてヨメナだけを残すと年々立派になる。こんな小さな気遣いで、ヨメナをはじめとする路肩の植物たちは花を盛んにつけ、人の目を楽しませてくれるようになる。ヨメナたちには、コスモスのように種をまいたりするなど特別な世話は必要ない。手間がかからず美しいヨメナたち、路肩の花はもっと大切にされてもいいと思う。
追記1
 ヨメナの花をまるで1個の花のように書いたが、本当はヨメナの花は、50個から100個くらいの小さな花が集まってできている。ヨメナのような花のかたまりを頭花という。
 周りにある花びら状のものを舌状花と呼び、中央にある黄色いものを筒状花とか管状花と呼ぶ。バラバラにして虫眼鏡で見るとどちらにもおしべやめしべがあって、それぞれが一つの花であることが納得できる。 
追記2
 ここではヨメナという特定の種類の名前を使ったが、ヨメナも含まれる野菊の仲間はたくさんの種類があって見分けることは難しい。記事のヨメナにはノコンギクやシロヨメナなどの他の野菊も含まれていると考えてもらってよい。


ヤマセミ

ただいま渓流漁見習い中

ヤマセミ(Greater Pied Kingfisher)
ブッポウソウ目カワセミ科 Ceryle lugubris
 カワセミはすっかりおなじみだが、同じ仲間のヤマセミはそう簡単に見つかる鳥ではない。この鳥の姿や生態をすぐにイメージできる人は、きっと自然系に興味のある人に違いない。
 カワセミが「川」ならヤマセミは「山」という生活区分の連想は間違いではない。しかしヤマセミは意外にも大きな河川の中流域でも見られる鳥だ。渓流の鳥という先入観に固執しないほうがよい。
 カヌーで川下りすると、静かな淵の上にかかる枝からハト大の白い鳥が下流に向かって飛び立つ。私のヤマセミとの出会いは大概がカヌーの上からである。地上から近づける場所でヤマセミを観察するのはなかなか難しいのである。
 私がヤマセミの写真を初めて撮ったのは6年前。カヌーで見つけたポイントに何度も通いつめて、ようやく川向こうに現われたときは感動した。その翌年も別のポイントで撮影し、それを最後にヤマセミ写真とは縁遠くなった。
 先月初めのことだ。谷道を遡りながらヤマセミとすれ違った。車から降りて捜索すると、堰堤の前後で数羽のヤマセミを観察できた。堰堤の深みでしきりにダイビングを繰り返す2羽は巣立ったばかりの幼鳥。観察中魚取りには一度も成功しなかったが、すぐにも一人で生き抜くための力を身に付けるだろう。
 ヤマセミは非常に警戒心の強い鳥で撮影が難しいが、ここの幼鳥はとても友好的だった。堰堤下のネムノキの木陰で休憩するヤマセミのやんちゃ坊主に、レンズ越しに「頑張れよ」とエールを送った。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2005年8月28日掲載


野生コウノトリ豊岡飛来三周年記念


コウノトリ(コウノトリ目 コウノトリ科)
 野生コウノトリが豊岡に飛来して丸3年が経過した。このコウノトリはオスである。8月5日に来たのだからハチゴロウという愛称も定着してしまったようだ。
 彼はコウノトリの野生復帰を進めるこの地域の人々に多くの示唆を与えてくれた。田んぼや河川敷にビオトープを作れば、そこに舞い降りて「こういう場所がよろしいのである。」と教えてくれる。最初の冬には独身の癖にひとりで巣を作って、「早く仲間を放鳥するように。」と強く催促した。最初はケージの屋根に巣を作り、どこにでも作るのだなあと関係者を驚かせたが、3回目には松ノ木の上に巣を掛け、「やはりアカマツの方がよろしい。」と里山の再生を促した。
 彼は三江小学校のヒマラヤスギに止まって、授業を急きょコウノトリの観察に変更させ、地元の子供たちを大いに喜ばせた。子供たちが通学する横の田んぼで餌をついばみ、40年以上以前の風景を復活させた。また、市民研究所の行事で田んぼの学校などを行っていると、しばしば様子を見に上空を舞ってくれた。サービス精神が旺盛である。
 さて、僕はもともとコウノトリなどには興味が無い人間であった。コウノトリよりもキノコやカニなどの方が重要である。しかし、最近コウノトリが好きになって来ている。あることがきっかけで、仕事でハチゴロウ追跡調査する機会に恵まれた。じっくりと見れば見るほど美しい鳥である。大空を舞う姿は雄大でしびれるものがある。僕は仕事が終了してからも休みの日には観察するようになった。
 彼はとても頭が良く、観察者の顔を覚えている。5回目ぐらいになると、完全に僕の顔を覚えてくれた。この間などは、遠くからじっと見詰め、僕であることを確認すると軽く会釈をしてくれた。認めてもらえると嬉しいものである。
 いよいよ9月24日に放鳥が行われる。豊岡に住む人たちも実際の野生コウノトリを見たことのある人はまだまだ少ないだろう。しかしこれからは豊岡の景色が変わっていくことに気がつくだろう。ふと見上げると大空をゆったりとコウノトリが舞っている。田んぼを見るとコウノトリが餌をついばんでいる。円山川の堤防を行けば、浅瀬にコウノトリがたたずんでいる。
 コウノトリを好きな人がどんどん増えていけば良い。あちらも人間のことが嫌いではなさそうです。
NPO法人 コウノトリ市民研究所
主任研究員 稲葉一明
*********************************
昨年3月、『「美しい」が未来の原点』というタイトルで本コラムにハチゴロウを書いた。豊岡市民として長年ケージの中のコウノトリを見慣れているはずなのに、その美しさに気づかせてくれたのは野生のハチゴロウだった。
白き美しい鳥と一緒に暮らすこと。その無垢な喜びを胸に抱くことから、豊岡の街づくりは始まって行くのではなかろうか。豊岡の空を舞うコウノトリを見て、ひとりでも多くの人が「美しい」と感じてくれることを願っている。
高橋信
*********************************
 八五郎の飛び回る場所が決まってしまって面白くない。だって、訪ねてきてくれないんだもの。私のところに来てくれたのは1度だけ。南の空を見ると高いところを白い鳥がくるくると回っている。鳥を見るのは素人だから自信がないが、じっと見ているうちにコウノトリと確信。八五郎は私の学校(八条小学校)の上を巡回してから、おもむろに妙楽寺の方に進路を変え、やがて鉄塔の上に止まった。高橋さんの職場の隣だ。きっと私達に挨拶に来たのだと思った。この時の写真は私の名刺に使われている。もちろん、フォトバイ高橋。
 さて、私はどうしたか?職員室に降りて、全校放送をした。一緒に眺めていると子ども達は「前にも見たで」と言うし、家に帰ると母がうちの上にも来ていたと言うし、あの頃はよかったなあと思う。でもまあ、10月になれば、別のが来るのだろうなあと期待している。
菅村定昌
*********************************
僕にとって八五郎の姿は衝撃的だった。彼は空の向こうから
ゆっくりと僕のいる方へやってきた。これがコウノトリか!大きな翼を
いっぱいに広げて優雅に舞う姿に、僕は素直に感動した。
野生復帰に向けたさまざまな努力と試みの意味が、そのときすぐに理解できた。
「あんなふうに空を飛んでみたいなあ」「そうかい。空から見る豊岡はなかなか
住みよいよ。大きな川や田んぼもあるしね。でもどうして他の仲間は飛べないの?
早く一緒に暮らしたいのになあ。」八五郎のそんな思いに、僕は野生復帰へ
の思いをより強くしたのだった。
竹田正義
*********************************


白い葉っていいな

ハンゲショウ ドクダミ科
 半夏生というのは夏至から11日目にあたる日で、ハンゲショウという名前は、
このころに花が咲き、葉が白くなるからだという説がある。また葉の半分が白
いので、半化粧だという説もある。

 ハンゲショウは本州、四国、九州、沖縄に生育する多年草で、水辺や湿地に
生え、1m前後になる。但馬では、各地に点々とあり、池や湿地には大規模な
群落が見られることがある。一方で川にはわずかしか生えていない。出石川、
竹野川、佐津川でも見たことがあるが、非常に狭い範囲にごく限られた数しか
生えていなかった。
 ハンゲショウは、6~8月に花を咲かせる。花期のハンゲショウはよく目立
つ。群落が大きいと本当によく目立つ。白い花かと思って近づくとそれは葉で
ある。しかも不思議なことに茎の上の方についている葉の先だけが白くなって
いる。
 ハンゲショウの花は、白い葉の中に咲いている。10~15cmのねずみのしっ
ぽ状に曲がった棒のようなものが花の集まり(花序)である。この花序に小さ
な花がたくさん咲く。小さな花には花びらもがくもなく、おしべとめしべがむ
き出しになっている。小さな花は花序の根本から咲き始めて先へ先へと咲いて
いくが、ちょうど開花している部分は水平になっている。これは、虫たちがタ
イミングよく止まれるようにわざわざ水平になっているのだそうだ。
 ハンゲショウも多くの花と同じように昆虫に花粉を運んでもらっている。花
の時期に合わせて白くお化粧した葉を見て昆虫たちがやって来る。あれ?花が
ないぞと探すと止まって下さいとばかりに水平になっているところがある。そ
この花だけがおしべもめしべも元気の活動していて、訪れた虫の体に花粉がつ
いたり、逆に虫の体から花粉がついたりするのだそうだ。
 花びらがなくて他の部分が白くなって虫を誘う植物は他にもある。マタタビ
がそうだし同じ科のドクダミもそうだ。マタタビは葉が、ドクダミは総苞が、
白くなる。ハンゲショウとマタタビは、どちらも虫を誘う必要がなくなると葉
白い葉っていいなは白から緑に戻って本来の仕事をするようになる。


アオバズク

鎮守の杜は最後の聖域

アオバズク(フクロウ目フクロウ科)
 高校生だった頃、青葉が茂る季節になると日が落ちた校舎の裏山からはアオバズクの「ホッホ・ホッツホ」という鳴き声が聞こえてきた。その声はフクロウの「ゴロスケ・ホッホ」に比べ、ずいぶん明るく軽やかなものだった。
 アオバズクはハトより一回り小さいフクロウの仲間で、繁殖のために南から渡ってくる夏鳥。近年すっかり数を減らしてしまったのは、餌となる昆虫が少なくなってしまったのが原因といわれている。
 アオバズク最後の聖域は鎮守の杜。ケヤキなどの古木にあいたウロに彼らは巣を作る。気に入った巣穴は何年も使われるから、繁殖の妨げになるようなことが起こらない限り、同じ場所で毎年彼らと出会うチャンスがある。
 そのアオバズクの姿を神社杜で初めて見ることができた。アオバズクは昼間はお気に入りの枝に止まって眠っていることが多い。警戒心は強くなく、静かに観察する限り逃げ出すことがない。今回最初の出会いは、神社入口の常緑樹の枝の中。すでに鳥仲間二人が観察中のところだった。相手との距離は8m。黄色い大きな目をキッと見開いて、こちらの様子を常にうかがっている。
 さすがに相手も根負けしたのか、やがて地上低く飛び出してからケヤキの高い枝に上がってしまった。飛んだときのアオバズクの翼は思った以上に長いもので、その飛翔姿は小型のタカと見間違えるほどだった。
 高い枝から我々を見下ろすアオバズク。その表情はとても豊かで、スコープ越しの観察は見飽きることがない。ときにまん丸、ときにアーモンド型、ときに伏目にと、黄色い虹彩に大きな瞳の目が形を変える。古くからフクロウは知恵の象徴とされてきたが、アオバズクの目で睨まれると心の奥底まで覗かれてしまうような、そんな気分になってしまう。鎮守の森に似つかわしい鳥である。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2005/6/28(火)掲載


クロイトトンボ


愛の水中蜻蛉
クロイトトンボ(均翅亜目イトトンボ科)
 トンボの産卵の仕方はいろいろな種類がある。飛びながら産むのか、どこに産み付けるのか、水面を叩くように産むのか、オスとメスが連結して産むか・・・・、細かく分けると、幾通りになるのだろうか。
 5月~6月豊岡市野上のコウノトリ増殖センター前にある田んぼビオトープではクロイトトンボの産卵が普通に見られる。こいつらの産卵の仕方には驚いてしまった。オスとメスが連結しながら水面を飛び交っているのだが、水面に止まったかと思うと、メスがお尻を水中に突っ込んで水草に卵を産み付ける。これは驚くことではない。メスは一所懸命で、どんどん深くお尻を水中に突っ込んでいき、首まで水に使ってしまった。えらい深くまで水に入るものだと見ていたら、とうとうオスのお尻を引きずり込むように頭まで水の中に入ってしまった。
 興に乗ってきたのか、卵を産みつけながらどんどん水の中に深く入っていく。オスも引きずられて行くように水に浸かっていき、かろうじて頭だけを水面から出している、と、驚いたことにオスも完全に潜ってしまった。
 クロイトトンボのメスとオスとが連結しながら、完全に水中に潜って水草に卵を産み付けているのだ。これを「潜水産卵」という。さらに詳しく書くと、「植物組織内連結静止潜水産卵」と書くべきかも知れない。
 完全に水没してから約5分後、2匹はつながりながら這い出てきて、何事もなかったように飛び立った。でも考えてみると、こいつらヤゴのときは完全に水中生活で、一生の間では水の中のほうが長いのだ。トンボというのは空を飛ぶ生き物というイメージが強いが、どちらかというと水の中の生き物なのかもしれない。
 完全に潜水した状態だと良く分からないので、途中の写真をつけておきます。
NPO法人 コウノトリ市民研究所
主任研究員 稲葉一明
2005,6,19掲載


コバンソウ

堤防にめぐり来る四季
 
コバンソウ イネ科
 私は円山川の堤防を通勤路にしている。堤防の自然の変化はなかなか劇的で、
運転しながらでも季節の変化はよく分かる。
 春先、堤防から河川敷にかけて一面が黄色に染まる。カラシナの開花だ。黄
色の一部に白が混じるのは、捨てられた大根が野生化したものだ。その黄色や
白が消える頃、堤防が赤く染まる。これはスイバだ。スイバの花の一つ一つは
小さく地味なものだが、花の数が多く、しかもその花をつける茎がにょきにょ
きと大量に立つので遠くからでも赤く見える。
 
 このスイバの花が盛りになり始める頃、コバンソウも花の準備を始める。時
間とともに数mmの丸い穂が卵形の2cmほどの穂に変わっていく。穂が育ち
きった頃には草丈も伸びて、通勤路の両側はコバンソウで埋まっていく。緑だ
ったコバンソウが黄金色になり、茶色くなり始めた頃には、チガヤが花を咲か
せ、ブタナの黄色が増えてくる。というようにコバンソウは、私に季節を知ら
せてくれる最も身近な植物の一つである。
 
 今でこそ最もありふれた野草になっているコバンソウだが、もともとは明治
時代に観賞用として入ってきている。印象的な姿形をしているからか今でも珍
重する人があるようで、HPで検索すると種子を売っているし、鉢植えされた
写真もある。ドライフラワーとしても利用するのだという。
 
 但馬にコバンソウが増えたのは最近である。コバンソウは道路の端に非常に
多く、堤防法面や荒れ地などにも多い。30年ほど前にはまだ稀で、海岸の砂
浜近くにいくらかある程度だった。それが今は、幹線道路沿いにどんどん分布
を広げているように見える。山の中の道端でも見たこともあり、どこまで広が
るのだろうと心配になる植物の一つである。
 
(文と写真:NPO法人コウノトリ市民研究所・菅村 定昌)
※2005/5/29掲載

続きを読む


コチドリ

「コチドリ踊り」の春

コチドリ(Little Ringed Plover) チドリ目チドリ科 Charadrius dubius curonicus
 コチドリは夏鳥で、3月も終わりに近づくといち早く豊岡盆地に戻ってくる。渡って来たときにはすでに「つがい」が形成されており、すぐにも繁殖活動を始める。
 コチドリが繁殖地として選ぶのは、丸石河原や農地の砂利道とかである。彼らは地面に直接巣を作る。樹上に巣を掛ける鳥のように、植物などを使って巣を編むということはしない。直径10センチほどの円形のくぼみを地面に作り、産座には細かい砂利が敷いてあるだけの粗末な巣である。
 繁殖期に日ごと繰り返されるコチドリの行動は非常におもしろい。オスは地面に胸をこすりつけ、尾羽を高く上げる。ビュルビュルと小さく鳴きながら、扇状に広げた尾羽を左右に振る。メスの気を引くためのこの求愛ディスプレイは、場所を変えながらメスの気持ちが高まるまで何度も繰り返される。
 やがてメスがその気になったとき、いよいよ「コチドリ踊り」が始まるのであるが、これがなかなか美しく情熱的なのだ。高まったメスはオスが最後にディスプレイしたくぼみに体を入れ、静かにそのときを待つ。メスに気に入られたオスはもう嬉しくてたまらない。片方の翼を広げ、それを傘のようにメスの上におおい被せながら、ビュルビュルと鳴いてメスの周りを踊るように歩くのである。
 さて「コチドリ踊り」の後は感極まって交尾にいたるわけだが、メスはすぐに4個の小さな卵を産む。オス・メス交替で抱卵し、20日ちょっとでヒナが孵る。もっとも、ヒナが孵るまでに巣が破壊されたり、卵を天敵に食べられたり、彼らの繁殖には大きなリスクがつきものだ。
 写真のペアがかつて営巣した農地は、大規模な圃場整備を受けた。ここでの繁殖はしばらく無理だろうが、そんなことは野生の世界では「想定内」。今日もどこかで「コチドリ踊り」が繰り返され、人知れず新しい命が生まれてゆくのである。
(文と写真:NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋信)
※2005/4/26掲載


オオヘビガイ

サザエにまさる“禁断”の味
オオヘビガイ
オオヘビガイ(盤足目ムカデガイ科)
 磯に行くとヘビがとぐろを巻いたように、あるいはうねうねと這うように、貝殻のようなものが岩にくっついている。オオヘビガイという巻貝の一種であるが、パイプ状の貝殻は螺旋を描くなど規則性が無く、種としての一定の形を持たない。潮間帯の岩に固着して生活し、潮が満ちるとクモが網を張るように粘液糸を水中に出して、それに付着したプランクトンを食べている。変な生き物である。
 ある本にこの貝が非常に美味で、カキよりも濃い味と書いてある。ずっと気になっていたが、ようやく挑戦する機会に恵まれた。
 岩にしっかりとへばりついているので、手では取れない。本体と岩の間にドライバーなどを合わせてたたいてやると、意外と簡単に脱落する。貝殻を破壊して身を引きずり出し海水で洗って刺身で食してみる。予想以上に美味である。
 僕はもともと貝類は好きなほうであるが、この貝については格別と言って良い。うまく言い表せないが、バイガイとサザエの中間みたいな味で、さらに旨味が濃いのである。肉の部分はこりこり、しゃきしゃきと良好である。肝の部分はアワビ、サザエのそれに近く、ねっとりと濃厚で苦味や生臭さはない。おそらくいろいろな貝類の中でもかなりの上位に位置するであろう。刺身もいいが茹でもすばらしく、甘く深い味である。
 しかし、ツブ、ニシなどと呼ばれる岩場の小型巻貝類と比べ、ほとんど食用の対象とされていない。採集には道具が必要で面倒で、大きさもアワビ、サザエとは比較にならないほど小さく、量を確保するのは大変である。さらに残念なことに潮の干満の差が小さい但馬の海では、生息場所が限られている。だからむやみに食べてはいけない。
 写真は外見と、身を取り出したところ。
NPO法人 コウノトリ市民研究所
主任研究員 稲葉一明
05,4,11掲載


1 2 3 4