アリスイ

は虫類の威を借りる鳥

アリスイ(キツツキ目キツツキ科)
 一年を通じて野鳥観察をしていると、いつごろ、どのあたりに、どんな鳥がやってくるのかが分かってくる。越冬のために北から下りてくる冬鳥や、繁殖のために南から戻ってくる夏鳥は、毎年ほぼ同じ行動を示すので予測もしやすい。
 渡りの一時期に立ち寄る鳥を旅鳥と言うが、旅鳥の行動パターンは一定しないことが多い。ある種の観察頻度の多い年は、その鳥の「当たり年」というような言い方をする。年によって見れたり見れなかったりするから、野鳥観察も飽きずに続いているのかも知れない。
 4月半ばの豊岡盆地は、行く鳥、来る鳥が混じりあって、一年で最も野鳥観察が面白い時期にあたる。ある日、六方川沿いの芽吹いたヤナギの葉陰に、ひょっこり出てきた鳥に驚いた。図鑑やインターネットの写真でしか見たことのない鳥だったが、ひとめでアリスイだと分かった。ウロコ状の羽根、太長くよく回る首。その特徴的なフォルムは他の鳥と間違えようがない。
 生き物は様々な方法で天敵から身を守る。アリスイは自らの姿をは虫類に似せることで、相手を脅す方法をとった。キツツキの仲間であるが、そういわれてもイメージできないほどにユニークな存在である。その名の通りアリが好物だが雑食性。日本では東北や北海道で繁殖。他のキツツキがあけた穴を巣として利用する。
 ジンクスという言葉があるが、実はアリスイの学名に由来している。ヨーロッパではその姿態から不吉な鳥とされ、この鳥を見ると悪いことが起こると信じられてきた。アリスイにしてみれば不本意だろうが、相手を気味悪がらせるこの鳥の作戦は見事に成功しているともいえる。
 なかなか出会える鳥ではない。渡りの季節にひっそりとアリスイがここに立ち寄っていることが分かれば、次の出会いがまた楽しみになる。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2006/6/19(月)掲載