ニホンアカガエル(アカガエル科)

命をかけた結晶

 今年も生きものたちが目覚める季節になってきた。
 まだ寒さが残る2月、僕はいつもよく行く田んぼに向かった。ニホンアカガエルの産卵状況を調べるためだ。このカエルはどの生きものよりも早く水辺にやってきて、里山の田んぼや水路の浅い水たまりに産卵する。卵塊はこぶし大くらいの球状をしていて、但馬の平地では、例年2月中旬から3月にかけて見ることができる。
 実はここには毎年この時期観察に来るものの、卵塊数をきちんと数えたことがなかった。僕は畦を歩いてその数を調べてみた。すると、何とそこには百を超える卵塊があったのだ。ここは冬でも湧水が流れ込む湿田地帯。僕は改めてその貴重さを再認識した。
 これらの卵は、おそらく数日前の暖かい雨の後にいっせいに産み出されたものだろう。また卵の発生状態から、暖冬のせいか、例年より約1ヶ月も早い1月中旬頃には産卵が始まっていたことも分かった。「もう春なの?」カエルたちはきっとそう言って目覚めたのだろう。
 その日から数日後、僕は播磨の湿地で驚くべき光景を目の当たりにすることになる。それは、春一番の暖かい雨が降った夜の出来事だった。
 「キョキョキョキョ…」。辺りは大合唱に包まれ、メスを待ち構えるオスが続々と姿を現し始めた。やがて、そこに1匹のメスが現れたのである。するとその瞬間に、約10匹ものオスがいっせいにメスの背中に飛び乗り始めたではないか。もみくちゃの状態は約1時間も続いた。1匹のメスをめぐるオスの攻防。結局このメスは産卵できずに草むらに消えていったが、初めて見るニホンアカガエルの思わぬ行動に、僕は興奮を抑えきれなかった。産卵は彼らにとってまさに命がけということを思い知らされたのである。
 但馬の湿田で見たたくさんの卵塊も、そんな彼らの命をかけた営みの結晶なのだ。たくさんの命を宿した卵のカプセルは、やがてオタマジャクシとなって田んぼを賑わす。次はどんな感動を僕たちに見せてくれるのだろう。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所 
主任研究員 竹田正義
(2007年3月11日掲載)


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