オオカマキリ(カマキリ科)

砂浜に見た命のリレー
 
 秋の日本海の砂浜。海浜植物の花で色鮮やかな季節とは対照的に、静けさに包まれ、荒波の音だけが辺りに響く。この頃、砂浜でよく見られる現象が、生きものの漂着である。陸や海から多種多様なものが波打ち際に運ばれ、夏とは違った情景を見せてくれる。
 昨年11月、僕は日本海の砂浜を歩いていた。その日もいろんなものが打ち上げられていた。日常の人工物に混じって、海藻や植物の種子が目立つ。僕は流木に腰掛け、水筒のお茶で少し休むことにした。曇天の空に時化た海。いつもの日本海の光景だった。やがて雲の切れ間から日が差し込んできたそのとき、僕は打ち上げられた1匹のオオカマキリを見つけた。
 陸上の生きものの漂着はそう珍しいことではない。この個体も、きっと産卵を終え力尽きた個体なのだろう。僕はカメラを向けた。と、その瞬間、前脚がわずかに動いた。生きている!かすかに前脚を構える姿は、迎える最期を静かに受け入れようとしているかのようだ。でも、僕の衝動はこれだけではなかった。何とおなかには無数のトビムシの仲間が集まり、まさにこの個体を食べている最中だったのだ。
 トビムシの仲間は砂浜に生息する小さな生きもので、漂着する海藻などを摂食する、いわゆる砂浜の分解者である。分解された有機物はやがて海浜植物の栄養源となっていく。生きながらにして、亡骸になるそのときまで命を営むカマキリ…。単なる自然の摂理や食物連鎖という言葉だけで説明できない強い衝動を、僕は覚えた。ひとつたりとて無駄な命はないということを、強く深く教えられたのだ。
 但馬の秋。生きものたちはやがて訪れる冬に備えて準備し、ある種はその営みを次代に受け継いでその短い命を終える。このカマキリも、きっと次の春には綺麗な花となって砂浜を彩るに違いない。
(2007年1月14日掲載)
NPO法人コウノトリ市民研究所 主任研究員 竹田正義


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