ナマズ(ナマズ科)

秋の日に見つけた寝顔

 長いひげににんまりとした大きな口が特徴のナマズ。円山川水系ではごく普通種で、支流河川の六方川では橋の上から悠々と泳ぐ姿を見ることができる。
 10月初め、僕は友人と六方川につながる水路で魚採集に興じていた。水路には田んぼからの用水が所々に流れ込んで溜りになっていて、そこにたくさんの魚の影が見える。早速網を入れてみると、いるいる!カマツカ、タモロコ、モツゴ…。網の中はすぐに何匹もの魚たちでごった返した。
 播磨から来た友人は、その魚の種類と数の多さに大はしゃぎだった。「こんなところ、なかなかないよ!」。僕たちはすっかり童心に帰っていた。
 バケツの中が魚でいっぱいになった頃、友人が指差した。「あ、ナマズ!」。澄んだ水の底に、体を少し斜めにした黒い巨体が見えた。ナマズは夜行性で、昼間は草陰などでじっと身を潜めていることが多い。このナマズも、きっと隙を見て足元を猛スピードで逃げていくに違いない…。ところが、目の前まで近寄っても動く気配を見せない。不思議に思った友人が網で体をちょっとつついてみた。すると、逃げるどころか、ますます体を斜めにして、ふわりとお腹の面まで見えそうではないか。
 それは僕が知っている力強いナマズの姿ではなかった。「おいおい!お前は本当にナマズなの?」。川面に暖かい日が差し込んでいる。あきれたことに、どうもお昼寝としか思えない。僕は水中からそっと寝顔を撮らせてもらった。
 なんて無防備な個体なのだろう。そういえば、同じようなトノサマガエルの群れを瀬戸内海の離島で見たことがある。これは全く僕の経験的感覚だが、その生きものがある地域で高次消費者であり天敵が少なければ、警戒心はやはりおのずと薄くなっていくのではないだろうか。別の言い方をすれば、人と生きものが程よい距離を保ち続けている、ということだろう。
 そんなことを思いながら、僕は但馬の自然の懐の深さを実感せずにはいられなかった。暖かい昼下がりの川の中。生きものたちとの時間はゆっくり流れていった。
2006年11月12日掲載
文と写真 竹田正義(NPO法人コウノトリ市民研究所主任研究員)


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