コウキヤガラ(カヤツリグサ科)

汽水域になびく宝物

 円山川の下流、日本海に程近いところに幾つかの湿地が点在している。そこは淡水と海水が混じり合う汽水域。降雨などの影響で常に塩分濃度が変化し、生きものにとっては厳しい環境だ。しかし、そこは特有の生きものたちの宝庫でもある。広大なヨシ原が広がり、ヒヌマイトトンボやイトヨが生息している。そして、そんな環境に生育する植物のひとつが、コウキヤガラである。
 僕が初めてコウキヤガラを見たのは今から数年前。円山川の河口近くに広がる、戸島というところの広大な湿田地帯だった。水と泥でひと続きになっている田んぼと田んぼの間に、一見ヨシ原を思わせるような緑が縦横いっぱいに広がっている。その緑のひとつひとつは腰の高さくらいの背丈で、茎の上部には小さな穂が密集してついている。風に揺られてなびく姿は、ちょうどひっくり返した線香花火のようにも見える。他のカヤツリグサ科の植物にはない初めて見る穂の形態だった。
 調べてみると、海岸付近の湿地に局所的に分布するコウキヤガラと分かった。本種は、県下では播磨地方と、ここ但馬でしか確認されていない。そんな貴重な植物が身近なところに群生していたことに僕は驚いた。それからというもの、本種に注視しながら円山川水系の河川や湿地を調べてみたが、ごく少数ながら見つかることがある程度で、大規模に群生しているところはその湿田以外になかった。
 汽水域にすむ動植物は、その特異な環境に適応し特化した生態的特徴を持っている。それは、河川などの純淡水にすむ動植物に比べて、微妙にバランスのとれた環境下でしか存続できないことを意味する。汽水域の湿地は、保護をより必要とする環境でもあるのだ。
 春、戸島の湿田では、ドジョウやナマズの稚魚がにぎわいを見せていた。コウキヤガラも一斉に新しい葉を出し始めた。僕は但馬の貴重な宝物を、もうひとつ見つけた。
文と写真 竹田正義(NPO法人コウノトリ市民研究所主任研究員)
※2006年9月10日掲載


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