オオコオイムシ(コオイムシ科)

戦略的な産卵行動

 水生昆虫の名前には、その種の特徴をうまくとらえたものが多い。オオコオイムシもそのよい例だ。メスがオスの背中に卵を産みつけ、オスが背中の子(卵)を背負うという、変わった習性をもつ。但馬地方では、田んぼや休耕田で比較的普通に見られる。
 それにしても、オスの背中にしか卵を産みつけないなんて、一体どんな意味があるのだろうか…。僕はその意味を探ろうと、背中に番号を書いたオオコオイムシを何匹か広い水槽に入れて、一連の産卵行動を観察してみることにした。するとそこには、オオコオイムシの驚くべき繁殖戦略が隠されていた!
 観察を始めてからしばらくすると、オスが懸命に体をユサユサと上下させて水面を揺らし始めた。これは、オスがメスを呼ぶときのサインだ。彼らの戦略はここからだった。僕の観察記録ノートは、この後一気に真っ黒になっていく。
 「3番オスと5番オスの周りに、2番メス、6番メス、7番メス、8番メスが集まる。3番オスが7番メスの上に乗り交尾。交尾後、7番メスは3番オスの背中に1個ずつ産卵。以後、3番オスと7番メスが交尾と産卵を繰り返す。一方、5番オスは、2番メス、6番メス、8番メスと相次いで交尾し、メスはそれぞれ5番オスに産卵。途中、6番メスとの交尾後、8番メスが割り込んで産卵することあり。」
 観察の結果、産卵の度にオスが何度もメスと交尾する行動(繰り返し交尾)や、交尾していないメスが割り込んで産卵する行動(割り込み産卵)が見られた。これらの行動の中に、彼らの種内競争が垣間見える。つまり、「繰り返し交尾」は自分の子孫を残すためのオスの精子競争、「割り込み産卵」はオスの背中をめぐるメスの競争、と考えることができるのだ。
 小さなオスの背中をめぐって展開される、オオコオイムシの戦略的な産卵行動。生きものの世界の奥深さと彼らのたくましい生きざまに、僕はただただ感服した。
(文と写真:NPO法人コウノトリ市民研究所主任研究員 竹田正義)
※2006年7月9日掲載


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