ドクゼリ:改修で種子目覚めるか

ドクゼリ セリ科

 ドクゼリという植物がある。猛毒である。つい最近まで理科の教科書の指導書に「身近な毒草について」という項があって、ドクゼリが必ず載っていた。「セリと間違えて食べるな」ということだ。それを見るたびに、昔の文献をそのまま写すのはいい加減にしてほしいと思ったものだ。近畿では滋賀県を除くとドクゼリで事故が起きることはまずない。絶滅寸前なのだ。最優先で守らないといけない植物になっている。セリと間違えて食べている場合ではないのだ。
 ドクゼリとは別に、延命竹という名前もある。ドクゼリは地下茎が竹の根のようになっていて、セリと簡単に区別できるのだが、その根本の様子を縁起のよいものとして延命竹・万年竹などと呼び、水盤に浮かべて鑑賞するのだそうだ。毒として敬遠するどころか、縁起のよいものとして大切にしているのだ。見方一つで同じ植物がこれほど変わるのは面白い。
 さて、このドクゼリ、但馬では40年ほど前に玄武洞の近くに生えていたという記録がある。以来誰も見ていない。何年か前、希少種が集中的に生育する六方川と円山川の下流域でドクゼリを探した。絶対に見つけるぞといさんで探したが徒労に終わった。
 最近、昭和30年代の豊岡盆地の植物相を伝える唯一に近い標本を調べてみた。上坂規知郎氏が採られたものだ。この中にドクゼリもあった。なんと、円山川の下流域ではなく、出石中学校の横で採られていた。どうやら昭和30年代には、ドクゼリは、豊岡盆地のいたるところに当たり前に生えていた植物だったらしい。
 現在、円山川で大規模な改修工事が行われているが、この工事で土の中に眠るドクゼリの種子が目覚める可能性がある。ドクゼリのような湿地に生える植物の種子は土の中で長く眠ることができる。今から工事現場を見に行くのが楽しみだ。ドクゼリを見つけたら水盤に浮かべてコウノピアに展示したいと思っている。きっとよいことがあるだろう。
追記
 実は、私は自分では理科の教師だと思っているのですが、もう6年間も理科を教えていません。その最後の理科の授業をした頃には、指導書に確かにドクゼリが載っていました。その他にはドクウツギやノウルシなどがありましたが、ノウルシも絶滅危惧種です。

 ドクゼリは大きな植物なので上下2枚の標本になっていました。