コガマ(ガマ科)

“偶然”の湿地に託す「種」

コガマ(ガマ科)
 多くの植物がまだ春を待っている冬の水辺で、ひときわ目立つ植物がある。
「蒲の穂」で知られるガマ科の植物だ。長い茎の先に綿菓子のような穂を付け、
風が吹く度に種子を飛ばす。僕は過去にこの植物と忘れられない出会いをした。
 数年前の夏、ある小さな湿地で蒲の穂を見た。穂は薄い黄緑色で、まだ出
来たばかりのようだ。8月にしては花期が遅い。一般的にガマの花期は初夏で、
この時期にはもう茶色を帯びているはずだ。それに全体的に少し背が低い。
 何か環境的要因が生育に影響しているのだろうか。というのも、生育状態が
良くないガマは小型になると聞いていたからだ。しばらくの間、それを単に小型
のガマとしか認識していなかった。
 しかしその後、付近の湿地で同じ特徴を示すガマ科の植物があちこちで見ら
れた。もしかして別の種類かもしれない。僕はそれぞれの生育地から花粉を採
取し調べてみることにした。図鑑などには「花粉が4個くっついているとガマ、
一つひとつ単体だとコガマ」とある。
 僕はそっと顕微鏡をのぞいてみた…。するとどうだろう、花粉は単体、つまり
それらはすべてコガマだった。円山川の中・下流域でコガマが小さな群落を形
成していたのだ。思わぬ発見に僕は興奮し、レンズの中を食い入るようにのぞ
き続けた。
 ガマ科の植物は、風の影響を受けやすい茎の高い所に穂を付け、冠毛のあ
る種子を大量に飛散させる。そして飛散した種子はさらに上空の気流に運ばれ
て遠い場所に移動できる。これは、種の存続を維持させる植物の知恵と工夫な
のだ。
 しかし、コガマの生育に適した河川敷や後背湿地は激減し、今や休耕田や放
棄水田といった、いわば偶然にも出現した湿地などでしか存続できない。しかも
そこは、植生遷移や人為的影響によってやがては生育に適さなくなることが多い。
 空に舞うコガマの種子は、果たして新しい生育地を見つけることができるのだろ
うか。彼らのしたたかな営みを前に、僕は祈るような気持ちで空を見上げた。
(文と写真: NPO法人コウノトリ市民研究所 主任研究員 竹田 正義)


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