オオアカウキクサ(アカウキクサ科)

水面に広がる赤いパズル

 ここは但馬北部の海岸に程近い湿田地帯。両側を山に挟まれたこの田んぼには、湧水が静かに流れ、曲がりくねった畦をあいまってさまざまな水面の造形を見せる。オオアカウキクサはそこで生育している。紅紫色に染まった枝状の体を寄せ合って、まるでジグソーパズルを組み合わせたように水面を敷き詰めている。
 この水草は、元々は水田雑草として全国各地に散在していた。ところが、農薬やほ場整備などの影響で激減の一途をたどり、現在ではこの地のように湧水が年中流れている湿地などでしか、その姿は見られなくなっている。ここでは、水田雑草もさることながら、生きものたちの姿や稲作と人との関係が、一昔前にタイムスリップしたかのようだ。
 数年前、僕は但馬のオオアカウキクサの分布状況について調べたことがある。すると、在来種よりも外来種の方が確認地点が多かった。これはアイガモ農法で用いられる外来種や、大陸から輸入された植物に付着して侵入してきた外来種が、付近の田んぼや川に流出した可能性が高い。この水草も、他の植物同様に外来種の侵入という問題に直面している。
 冬が近づき、久しぶりにこの地を訪れた。すると、かつて湧水を湛えていた田んぼ1枚1枚が、背の高い雑草に覆われているではないか。稲作を営むことの難しさを僕は目の当たりにした。しばらくすると、田んぼの中の僕に、地元の人が「こっち、こっち」と手招きする。庭にお邪魔すると、そこには、オオアカウキクサで満たされた壺が幾つか鎮座していた。
 「ここではこの植物は誇りですからね。これからも大事にしていきたいんです」
 僕は稲作という営みの中で築かれた、人と自然の関係を見たような気がした。
 冬、ここはオオアカウキクサの赤と雪の白が見事な情景を醸し出す。今年もその光景が楽しみで待ち遠しい。
(文と写真/NPO法人コウノトリ市民研究所 主任研究員 竹田正義)
※2005年12月4日掲載


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