タマシギ

六方田んぼの隠れたアイドル

タマシギ(チドリ目タマシギ科)
 雨の日曜日、六方田んぼ百合地地区の湛水田をまわってみる。今日は工事が休みでダンプも通らない。近くの人工巣塔の営巣コウノトリ見物の人も来ない。そんな静かな雨の朝、安心しきって湛水田に顔を出したのは警戒心の強いタマシギ。しかも色の綺麗な雌が2羽。
 タマシギは他の鳥の雄と雌の関係が逆転したユニークな生態を持つ。雌の方が派手な色をしていて、一夫多妻ならぬ一妻多夫の繁殖を行う。雌はペアとなった雄との卵を産んだ後は、抱卵から先の一切の子育てを父親に任せてしまう。そしてまた別の雄を求めて新しいペアを作る。子育てを分散させることで、水田環境で子孫を確実に残そうという戦略だ。
 タマシギは姿もユニーク。黄褐色の雄もそれなりだが、やはり雌の羽根模様が美しい。茶色の首、胸には黒いV字の模様、それに沿って肩からの白いたすきがお腹の白とつながる。先にゆくほど赤みが増すくちばしがおしゃれだ。そしてタマシギ最大の特徴が大きな目と、それを隈取る白い勾玉模様。半夜行性のシギだから大きな目をしている。昼間は白い隈取りが外敵への威嚇効果になっていると考えられる。
 観察中のタマシギに突然緊張が走った。次の瞬間、黒い影が地上すれすれを高速で飛んだ。ハヤブサだった。3度タマシギめがけて攻撃を仕掛けたが、くぼみにうまく身を隠したタマシギは難を逃れた。どうやらタマシギの目模様もハヤブサの前では効力がなさそうだった。 
 健全な水田環境があって初めて、タマシギが暮らしてゆける。タニシやカワニナ、ミミズ、バッタなどを食べる。田んぼの健全性を知る指標生物として、タマシギは隠れたアイドルと言ってよい。コウノトリを育む田んぼは、他のたくさんの生き物を育むことに他ならないのである。
文と写真 NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋 信
※2007年5月13日(日)掲載