コチドリ

「コチドリ踊り」の春

コチドリ(Little Ringed Plover) チドリ目チドリ科 Charadrius dubius curonicus
 コチドリは夏鳥で、3月も終わりに近づくといち早く豊岡盆地に戻ってくる。渡って来たときにはすでに「つがい」が形成されており、すぐにも繁殖活動を始める。
 コチドリが繁殖地として選ぶのは、丸石河原や農地の砂利道とかである。彼らは地面に直接巣を作る。樹上に巣を掛ける鳥のように、植物などを使って巣を編むということはしない。直径10センチほどの円形のくぼみを地面に作り、産座には細かい砂利が敷いてあるだけの粗末な巣である。
 繁殖期に日ごと繰り返されるコチドリの行動は非常におもしろい。オスは地面に胸をこすりつけ、尾羽を高く上げる。ビュルビュルと小さく鳴きながら、扇状に広げた尾羽を左右に振る。メスの気を引くためのこの求愛ディスプレイは、場所を変えながらメスの気持ちが高まるまで何度も繰り返される。
 やがてメスがその気になったとき、いよいよ「コチドリ踊り」が始まるのであるが、これがなかなか美しく情熱的なのだ。高まったメスはオスが最後にディスプレイしたくぼみに体を入れ、静かにそのときを待つ。メスに気に入られたオスはもう嬉しくてたまらない。片方の翼を広げ、それを傘のようにメスの上におおい被せながら、ビュルビュルと鳴いてメスの周りを踊るように歩くのである。
 さて「コチドリ踊り」の後は感極まって交尾にいたるわけだが、メスはすぐに4個の小さな卵を産む。オス・メス交替で抱卵し、20日ちょっとでヒナが孵る。もっとも、ヒナが孵るまでに巣が破壊されたり、卵を天敵に食べられたり、彼らの繁殖には大きなリスクがつきものだ。
 写真のペアがかつて営巣した農地は、大規模な圃場整備を受けた。ここでの繁殖はしばらく無理だろうが、そんなことは野生の世界では「想定内」。今日もどこかで「コチドリ踊り」が繰り返され、人知れず新しい命が生まれてゆくのである。
(文と写真:NPO法人コウノトリ市民研究所・高橋信)
※2005/4/26掲載