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ビオトープ転作試験ほ中間報告

 コウノトリ市民研究所では、地元農家のご協力を得て、コウノトリの郷公園前の田 んぼ3枚にビオトープ転作試験ほを設置しました。豊岡市の設置した1枚と加え、計 4枚72アールについて、5月より週1回の観察調査を進めてきました。現在までの 調査結果を中間報告としてまとめてみました。 1 試験設計概要  水田面積の4割に及ぶ転作田を利用し、できるだけ手間をかけず、いつでも水稲作 へ復元可能な状態でビオトープ化し、豊岡盆地の生物多様性の増進と、コウノトリの 餌場としての可能性を探る。  地域の稲作体系に準じて4月下旬から5月上旬にかけて、耕耘代掻きを行い、以後、 施肥、田植えを行わず、来春まで常時湛水状態を保つ。植物の繁茂状態により必要に 応じ耕耘、草刈等除草を行う。 2 調査結果 (1)全体概要  ほ場整備田なので、ビオトープとしてはあまり期待できないのではないかと思って いたが、予想以上に豊な生物の棲息空間となった。菌類、植物、ヒル類、貝類、クモ 類、水生昆虫、トンボ類、バッタ類、チョウ類、魚類、カエル、鳥類などが観察され た。さまざまな生物が発生、飛来し、ビオトープとして十分な機能を発揮したといえ る。特にサギ類やカルガモなどの水鳥がたびたび観察されたことは、コウノトリの住 みかとしての可能性も感じさせる。 (2)植物  豊岡市のほ場では一部陸地を作っているが、そこではイヌビエが全面を覆っている ように見え、その下にさまざまな植物が生えている。  畦の部分は、畦特有の植物群落で安定しているようだ。出現する種が若干違うが、 所有者による刈り取り時期や回数による影響が効いていると思われる。  水を張った田面には、コナギ、クログワイを中心に多様な水生植物が見られる。近 年減少しているミズオオバコやミズワラビなどの希少植物も見られる。  田んぼにより植物の発生割合が違う。特に2番ほ場はコナギが多い。また、どのほ 場もヒエはほとんど生えていない。深水によりヒエの発生は抑えられる。  試験ほは、春以降ほったらかしにしているのだが、常に湛水状態を保っているため、 あるいは刈り取り圧から耕作放棄田とは明らかに違う様相を呈している。個人ごとに 感じ方はちがうだろうが、耕作放棄地のような不快さはなく、自然の良好な景観では ないかと思う。ただし、今回新たに作られた陸地部分のについては不自然で好ましく ない景観となっている。  植物の繁茂を抑えるために、ほ場によっては途中で代掻きを行っているが、軽い代 掻きでは植物はすぐに復活した。水生昆虫などへのダメージもそれほど大きくないよ うである。コナギについては、むしろ代掻きの刺激により新たに発芽すると言われて おり、試験ほにおいてもそのことが感じられた。 (3)鳥類  試験ほを設置してすぐにサギ類が飛来した。稲が植わっておらず、水面の多いビオ トープは居心地がよいのであろうか、アオサギ、コサギ、チュウサギ、カルガモが調 査に行くと大抵観察された。T、1、2番ほ場は連反しており、広い面積が確保され、 視界も広いので、鳥たちも安心しているようだ。考えてみると水田は多数あるが、こ のような水辺はほとんどないので、水鳥たちにとっては貴重なのかもしれない。今後 冬鳥たちがきてくれるかどうかが楽しみである。 (4)魚類  排水路との落差のあるほ場整備田なので魚類の発生はないだろうと思っていたが、 用水路ルートでメダカ等が進入してきたようだ。ドジョウはもともといたものなのか、 大きいものや稚魚が観察された。 (5)爬虫類  爬虫類についてはカナヘビとシマヘビのみ観察された。シマヘビは用水路横の穴に 棲んでいたようだがカエルが少なくなる時期に姿を消した。 (6)両生類  カエルの発生量は非常に多い。特にほ場整備田で減少しているトノサマガエルも大 量に発生した。  オタマジャクシとカエルは7月上旬まで高い密度で生息している。試験ほは山から かなり離れているが、ヤマアカガエル、ニホンアカガエル、シュレーゲルアオガエル、 の産卵、発生も行われている。  6月下旬の畦はトノサマガエルとアマガエルでいっぱいだ。7月に入ると急激に密 度が下がり、酷暑の時期はアマガエルが皆無となる。しかしトノサマガエルは低密度 だが棲息している。 (7)昆虫類  小型のゲンゴロウ類、ガムシ類が多数確認された。ハイイロゲンゴロウを例に取る と、7月に周辺から飛来してきたようである。タイコウチやミズカマキリ、コオイム シなども高密度とはいえないが観察された。マツモムシはほ場内で孵化したものが育 ち、大変高い密度で棲息している。  トンボ類も多彩である。水中ではヤンマ類、トンボ類、イトトンボ類のヤゴが多数 確認されるとともに、ビオトープ全域を成虫が飛び交っている。シオカラトンボ、シ ョウジョウトンボが特に長期間に渡り観察できる。アジアイトトンボやキイトトンボ など大変美しいイトトンボ類も多数観察される。  畦や法面を中心にバッタ類も多い。夏場カエル類の姿が少なくなると大きく育った バッタ類が目に付くようになる。  チョウ類もあまり多くはないが観察された。6月下旬には里山のチョウであるオオ ウラギンスジヒョウモンが畦の花に群れていた。 (8)貝類  4番ほ場のみモノアラガイ類が観察された。田んぼごとの個性がある。1番ほ場で はマシジミの稚貝が確認された。これも用水路から進入したものだろう。基幹排水路 にはマシジミ、カワニナが多数生息している。タニシは確認できなかった。 (9)クモ類  クモ類についてもどのほ場でも見られ、植物の繁茂とともに密度が高くなっている ようだ。ハシリグモ、コモリグモ類が観察された。法面ではコガネグモ類も観察され た。 (10)その他  代掻き直後ミミズの死骸が目立った。4番ほ場ではイトミミズが確認された。ヒル がどのほ場でも確認されたが、子供が大勢裸足で入っても血を吸われて困ったという ことはなかった。代掻き後ミジンコが多数発生していた。       3 考察等 (1)一般水田との比較など  ビオトープ転作田は、当初水稲が植わっていないせいか、一般水田よりも生物相が 貧弱なようにも思われたが、6月以降植物の繁茂とともに逆転したと思われる。6月 下旬から一般水田では中干がされるが、これはオタマジャクシや水生昆虫に大きなダ メージを与えているはずであり、常時湛水のビオトープ転作田は豊な生物相を維持で きる。 (2)ビオトープとして  1枚ごとに植物、動物の生息状態がかなり違う。隣の田んぼでも発生する植物が全 然違う。田んぼごとに個性がある。しかし、常時湛水するということが水生動植物の 多様性を確保し、明らかに耕作放棄田と違うビオトープとして機能するのではないか。 3番4番ほ場は、稲刈り前は周辺へ迷惑を掛けないよう一時水を落としたが、水生昆 虫等の密度は明らかに減少した。常時湛水がビオトープ転作田としては重要である。 (3)コウノトリの餌場としての可能性  ほ場整備田でも魚類の自然侵入、発生が確認できたことは、コウノトリの餌場とし ての期待ができるのではないか。  7月上旬まではオタマジャクシ、カエルが豊富であり、それ以降から秋にかけては バッタ、イナゴ類が豊富である。フナ、ナマズなどと比べえさとしてのボリュームの 問題があるが、面積でカバーできるのではないか。   (4)一般稲作との共存について  陸地部分と畦のヒエについては適時に草刈を実施し、カメムシ等害虫の発生等を回 避することが必要である。この場所はカエルや昆虫の生息場所として重要であるので、 トンボやカエルが発生ピークを過ぎ、ヒエが穂をつけてくる7月上旬に草刈を行うの がよいのではないだろうか。  常時湛水は隣接する田んぼの渇きを悪くするため、稲刈り時には迷惑を掛けてしま う。水系に沿って団地化するなど必要である。 (5)田んぼの学校として  毎月最終日曜日に公開調査を行った。そこでは田んぼの学校として子供たちに生き 物調査を実践させた。はじめのうちは裸足ではいるのをためらっていた子供たちもや がて、どんどん田んぼの中に入っていき、生き物をすくい始める。バットに集めたオ タマジャクシ、ヤゴ、タイコウチ、ミズカマキリなどにを夢中で観察する。大部分の 子供たちは田んぼの生き物が大好きだ。 4 今後の課題  秋から冬にかけての観察を続けるとともに、来年は2年目の生物相の変化、代掻き による植生遷移の抑制効果、水稲作への復元状況等を調べたい。  カエルの進入経路、産卵、発生、オタマジャクシからカエルへの変態時期、移動経 路について、種類ごとに明らかにしたい。水稲作におけるカエルに優しい管理方法等 明らかにしたい。  一般稲作、湛水直播稲作、減農薬稲作等とのビオトープとしての比較、また、有機 質肥料等の投入により、ビオトープ内の栄養分を増加させ、カエルやドジョウ、カワ ムツなど、コウノトリの餌となる生き物の増加が図れないかなど調査したい。 5 観察された生き物 (1)植物:シャジクモの1種,トクサ科,スギナ,ミズワラビ科,ミズワラビ,アカネ科, フタバムグラ,アカバナ科,チョウジタデ,アブラナ科,イヌガラシ,スカシタゴボウ,イ ネ科,アキノエノコログサ,イヌビエ,イネ,エノコログサ,オヒシバ,キンエノコロ,シ バ,ナルコビエ,メヒシバ,オオバコ科,オオバコ,オトギリソウ科,ヒメオトギリ,オモ ダカ科,オモダカ,カタバミ科,カタバミ,ガマ科,ガマの1種(おそらくガマ),カヤツ リグサ科,カヤツリグサ,クログワイ,コゴメガヤツリ,サンカクイ(植栽付随),タマガ ヤツリ,ハリイ,ヒデリコ,ヒメクグ,ホタルイ,ヤリイ,キキョウ科,アゼムシロ,キク科, アメリカセンダングサ,オオアレチノギク,オオオナモミ,オオブタクサ,セイタカアワ ダチソウ,タカサブロウ,トキンソウ,ハハコグサ,ヒメジョン,ヒメムカシヨモギ,ヨメ ナ,ヨモギ,キツネノマゴ科,キツネノマゴ,ゴマノハグサ科,アゼトウガラシ,アゼナ, アメリカアゼナ,キクモ,ムラサキサギゴケ,シソ科,クルマバナ,シラゲヒメジソ,トウ バナ,スイレン科,コオホネ(植栽),スミレ科,ツボスミレ,セリ科,オオチドメ,タデ科, イヌタデ,ギシギシ,ミゾソバ,ヤナギタデ,ヤノネグサ,ツユクサ科,イボクサ,ツユク サ,トウダイグサ科,エノキグサ,オオニシキソウ,トチカガミ科,ミズオオバコ,ナデシ コ科,ノミノフスマ,ヒユ科,ヒナタイノコズチ,ヒルガオ科,ヒルガオ,マメ科,クサネ ム,クズ,シロツメクサ,ツルマメ,メドハギ,ヤハズソウ,ヤブツルアズキ,ミクリ科,ミ クリ(植栽),ミズアオイ科,コナギ,ミソハギ科,キカシグサ?,ホソバヒメミソハギ,ミ ゾハコベ科,ミゾハコベ,ミツガシワ科,ヒメシロアサザ(植栽) (2)菌類:ホコリタケ (3)鳥類:コサギ、チュウサギ、アオサギ、ツバメ、ゴイサギ、カルガモ、セグロセ キレイ、スズメ、キジ    (4)魚類:カワムツ?稚魚、カマツカ稚魚、ドジョウ、メダカ (5)爬虫類:カナヘビ、シマヘビ (6)両生類:トノサマガエル、アマガエル、シュレーゲルアオガエル、ヤマアカガエ ル、ニホンアカガエル (7)昆虫類: 1)甲虫類:ヒメガムシ、コガムシ、ガムシ、ハイイロゲンゴロウ、ヒメゲンゴロウ、 シマゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、マルガタゲンゴロウ、クロズマメゲンゴロウ、 クロゲンゴロウ、コガシラミズムシ 2)セミ・カメムシ類:クモヘリカメムシ、ミズカマキリ、オオコオイムシ、タイコウ チ、マツモムシ、コミズムシ、アメンボ類 3)トンボ類:ヤゴ(トンボ型、ヤンマ型、イトトンボ型)、シオカラトンボ、オオシ オカラトンボ、コフキトンボ、ショウジョウトンボ、チョウトンボ、アキアカネ、ノ シメトンボ、ギンヤンマ、アオヤンマ、ネアカヨシヤンマ、キイトトンボ、アジアイ トトンボ、オオイトトンボ、 4)バッタ類:トノサマバッタ、ショウリョウバッタ、イナゴ、トゲヒシバッタ、コオ ロギ類 5)チョウ類:モンシロチョウ、オオウラギンスジヒョウモン、セセリチョウ類  6)その他:アブ類、ガガンボ類、ユスリカ類 (8)貝類:モノアラガイ類、マシジミ (9)クモ類:ハシリグモ類、コモリグモ類、コガネグモ類 (10)その他:ヒル類、イトミミズ類、ミミズ類、ミジンコ類                  (文責:コウノトリ市民研究所 稲葉 一明)